自宅を「介護リフォーム」すれば、在宅介護を続けやすくなります。
介護が必要になっても、住み慣れた自宅で生活を続けたいと願う高齢者は多いもの。しかし体が不自由になると、ちょっとした段差や和式トイレなどの使用が困難になります。

介護リフォームは介護保険の住宅改修で行うことも可能です。
住宅改修ができるリフォームの内容や利用の条件、わかりやすく解説します。
介護リフォーム(住宅改修)!2つのメリット
介護リフォームとは、その名の通り「介護」のために住宅を「リフォーム」することです。
具体的には、トイレや廊下に手すりを付けたり、床を滑りにくい素材のものに変えたり、段差をなくしたりなどが一例として挙げられます。
住宅改修のメリットは、大きく2つです。
1.高齢者が自立した生活を送れる
自宅をバリアフリー化することで、高齢者は自立した生活を送りやすくなります。そのため、在宅生活を継続しやすくなるのです。
たとえばトイレのとき、立ったり座ったりに介助を必要としていた人が、トイレに手すりを付けたら1人でトイレに行けるようになったケースや、部屋に段差がなくなったことで家のなかを自分で移動できるようになったケースなど、介護リフォームは要介護者の自立に向けてさまざまな効果をもたらしています。
2.家族の負担が軽減する
住宅改修には、高齢者だけでなく家族にとってのメリットもあります。
トイレや浴室などの段差をなくしたり手すりをつけたりすることで介助がしやすくなり、介護者の負担軽減につながります。
また、介護保険を利用すれば自己負担が少ないので、金銭的な負担もおさえることができます。
住宅改修の時期について
住宅改修は、介護が必要になった人が住み慣れた自宅での生活を続けるためにするものです。
そのため、要介護認定で要介護1以上に認定された人が利用対象となります。
要支援1・2の人は介護予防住宅改修の利用が可能です。
いろいろある介護サービスのなかでも、住宅改修は要介護度が低い人の利用率が高いのが特徴です。
その証拠に、厚生労働省の調べによると住宅を行った人の約5分の4が要支援1から要介護2までの人であることがわかっています。
住宅改修の利用率を年齢別で確認した場合、一般社団法人シルバーサービス振興会の資料によると70~85歳で6割近くを占めています。
また年齢を問わず、自立もしくは見守りなどがあれば自立して行動できる人がほとんどです。
少しでも自分の力で動けるように、そして家族の介護負担が軽減できるように、本格的な介護が必要になる前に住宅改修を利用するケースが多いようです。
介護リフォームを施工する時期はその家庭によってさまざまですが、一番多いのは、要介護者や家族が介助をするなかで不便さを感じて工事をするケースでしょう。
排泄や入浴の不便さから住宅改修に踏み切る人が多いようですが、「ここに手すりがあったら」や「この段差がなければ」などと思ったら、リフォームを検討する時期かもしれません。
次に、要介護者本人が病気になったときも住宅改修を検討する時期といえます。
なかでも、手足の麻痺など後遺症が残りそうな病気になったときは、本人が入院している間に自宅の介護リフォームを済ませておく家族も多いようです。
ただし、利用する本人が利用しやすいリフォームになるように注意しましょう。
他にも、要介護認定を受けた時点で介護リフォームに踏み切る人もいます。
介護度が低いうちに、先を見据えてトイレに手すりを取り付けたり部屋の段差をなくしたりしておけば、転倒や事故のリスクを下げるメリットもあるからです。
なお、リフォーム工事の期間中はトイレや浴室などが使えないこともあるので注意しましょう。
リフォーム期間の過ごし方についても併せて検討が必要です。
上限20万円って?気になる負担額や条件を知ろう!
住宅改修は介護保険の対象サービスなので、20万円までなら1割負担(所得によって2~3割負担)で工事が可能です。
上限の20万円を超えなければ、数回にわけて利用することも可能なので、必要なときに必要なリフォームができます。
ただし、合計で20万円を超えた分の費用に関しては全額自己負担になるので注意が必要です。
なお、介護リフォームは他の介護サービスのように1割負担の金額で請求を受けるわけではなく、一度、工事施行業者へ全額支払いをしてから7~9割分が償還払いで支給されます。
ここで、住宅改修の具体的な支払い例を挙げてみましょう(1割負担のケース)。工事費用20万円まで対象です。
↓
・トイレに手すりを付ける工事 費用3万円(1割負担3,000円)
【利用可能な残りの金額は17万円 (負担額合計3,000円)です。】
↓
・廊下に手すりを付ける工事 費用5万円(1割負担5,000円)
【利用可能な残りの金額は12万円(負担額合計8,000円)です。】
↓
・玄関の段差をなくす工事 費用15万円(1割負担12,000円)
【工事の合計額】が23万円なので、マイナス3万円です。
(1割負担の合計2万円 + 全額自己負担分3万円 = 5万円)
つまり、合計23万円かかる工事に必要な金額は5万円です。
ただし、これは1割負担のケースなので、2割負担の人なら7万円、3割負担なら9万円となるので、注意しましょう。
上記の例は20万円をオーバーしていますが、多くの人はこのように上限額を超えて利用することも珍しくはありません。
自治体によっては介護リフォームに対する補助金や助成制度があるので、併せて利用すると費用負担を軽減できます。
また、住宅改修を利用できるのは、原則1人1回限りになることも頭に入れておきましょう。
ただし、要介護度があいだ3段階上がった場合(要介護1だった人が要介護5、要支援者1.2に対しては要介護4以上)や、引っ越しをした場合は再度20万円を上限としてサービスを利用できます。
なお、工事には消費税がかかります。10%が適応されます。
住宅改修の対象になる6種類の工事とは?
介護保険の対象となる工事内容は以下の6種類に限定されています。
手すり
歩行や立ち上がる際の支えとなる手すりの取り付けです。玄関やトイレ、浴室などいろいろな場所で施工できます。
住宅改修の工事では手すりの取り付けがもっとも多く、需要が高い工事内容です。
段差の解消
段差の解消は、歩きやすくなるうえ転倒予防にもなります。
廊下や玄関、浴室などだけではなく、段差の解消にはスロープの設置も含まれるので、車椅子を利用する人にも必要な工事といえるでしょう。
段差の解消は2番目に需要の高いリフォームです。
床や通路の材料変更
床や通路の材料を変更できます。
滑りにくい素材の床にしたり、車椅子が動きやすいように畳をフローリングに変えたりする工事がこれにあたります。
扉の取り換え
扉の取り換えが可能です。
開け閉めが容易で介助の邪魔にならない引き戸に取り換える工事などが挙げられます。
便器の交換
和式便器から洋式便器への交換や、便器の向きを変えるなどの工事です。
洋式便器は高齢者本人が楽にトイレを使用できるだけでなく、介護をする人の負担も軽減します。
付帯工事
上記5つのリフォームを行うために付帯して必要となる工事です。
たとえば、手すりの取り付けのための壁の補強や便器交換のための水道工事などがここに分類されます。
玄関やトイレ…場所別でできる住宅改修の内容は?
玄関
玄関でよく施行される工事には、手すりの取り付けや段差の解消があります。
その他、玄関のドアを引き戸に変えたり、土間の素材を変更したりもよく行われる工事です。
要介護者の場合は、靴の着脱時や雨の日の外出などに玄関で転倒する心配も大いにあります。
外出がおっくうにならないためにも、安全に配慮した玄関にしたいものです。
廊下・階段
廊下や階段に関しては、手すりの取り付けはもちろん、滑り止めの表面加工の工事などがあります。
手すりがあれば、高齢者1人でも転倒の不安なく家のなかを歩ける人も多いでしょう。
また、高齢になると思うように足が上がらなくなり、すり足で歩く人も少なくありません。
そこで、歩行時に足を引っかけやすい敷居の撤去もよくある工事です。
トイレ
トイレでは和式便器を洋式便器に交換する工事以外にも、床の引き上げや引き下げによってトイレ内の段差をなくしたり、既存の便器の位置や向きを変更したりの工事も行われます。
「介護を必要としてもトイレだけは自分で行きたい」と思う高齢者も多いので、住宅改修で使いやすいトイレにすることは、要介護者の自尊心を保つことにもつながるでしょう。
浴室
浴室は水に濡れて滑りやすいので、事故の起きやすい場所のひとつです。また、もっとも介助を必要とする場所でもあります。
そのため、滑りにくい床への変更や、本人がまたぎやすく介護者が介助しやすいように、低い浴槽に交換するなどの工事があります。
浴室の出入りがしやすくなる引き戸への交換や、車椅子のまま浴室に入れるよう段差をなくす工事も住宅改修の対象です。

住宅改修の対象とならないケース
住宅改修は、在宅介護を続けやすくして本人が自立を目指すことを目的としているため、老朽化による扉や床材の交換はできません。
また、工事を必要としない手すりや便座の設置もできません。
工事を伴わない手すりは福祉用具貸与の対象となります。
住宅改修で可能な工事かどうか気になるときは、担当のケアマネジャーや市町村の介護課に確認する必要があります。
住宅改修をしたい!流れや必要な申請とは?
(1)ケアマネに相談
まずは、担当のケアマネジャーに相談します。
自宅のどんなところに不便さを感じているのかを具体的に話しましょう。
(2)事業者の選択・見積もり
どのようなリフォームをするかが決まったら、ケアマネが施行事業者の選択や見積もり依頼を行います。
(3)市町村に申請書類を提出
続いて、工事をする前の段階で市町村に以下の4つの書類を提出し申請します。
- 支給申請書
- 工事費見積り書
- 介護リフォームが必要な理由書
- リフォーム後、完成予定の状態がわかるもの(日付の入った写真、もしくは住宅の間取り図など)
(4)介護リフォーム開始
市町村が申請書類を確認し「住宅改修が必要」と判断されたら、いよいよ工事開始です。
(5)工事費を全額支払う
介護リフォーム終了後、施工業者に全額工事費の支払いをします。
(6)住宅改修費の支給申請を行う
全額支払ったあと、市町村に改修費支給の申請を行います。
その際に必要な書類は以下の4つです。
- 介護リフォームの領収書
- 工事費内訳書
- 介護リフォームの完成後の状態を確認できる書類 (日付の入った修繕前と修繕後の写真)
- 住宅所有者の承諾書
(7)自己負担分を除いた金額の支給
保険者である市町村は、上記の書類を確認して適切な工事が行われたかをチェックします。
適切だと認められると、自己負担分を除いた金額が戻ってきます。

いくつになっても住み慣れた自宅で生活したいと思うのは当然の感情です。
その思いを叶えるために、要介護者が暮らしやすく、家族が介護しやすい環境にできるのが「住宅改修」だと意識してほしいです。
在宅介護を長く続けるなら、検討したいサービスのひとつです。

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